JPEG音楽とレイヤー音楽と譜面作成

はじめに

こんにちは。Luineです。

先日、下記のようなツイートを見かけました。

ここに出てくる「JPEGを聴いてる」「レイヤー分けされた音楽を聴いている」という2種類の聴き方は、譜面作成の文脈に応用出来るのでは?と考えました。

本記事の意図は、この2種類の聴き方を用語として定義し、今後の譜面作成の思考に応用出来るようにすることです。本記事では、2種類の聴き方を用語として定義した後、定義された用語が譜面作成の思考において役立つことを示します。

JPEG音楽とレイヤー音楽と譜面作成

まず、2種類の聴き方を用語として定義します。

  • JPEG音楽
    • 単一のまとまりとして認識して聴いている音楽
  • レイヤー音楽
    • 複数のレイヤーとして分離させて聴いている音楽

レイヤー音楽に関する具体例は次のようなものがあります。

下記の動画の歌の始まりから16小節(0:35~1:01)を見てください。

www.youtube.com

前半部分ではボーカルを、後半部分ではバックのコード音を取っていることが分かります。このように、同一の曲からボーカルのみを、バックのコード音のみを抜き出すような聴き方をキー音なしでも行っている時、レイヤー音楽と言うことが出来ます。

譜面作成においては、レイヤー音楽は多かれ少なかれ利用することになります。

例えば、上で挙げた動画のように、同じような曲調に対して音取りで展開を付けることは、譜面制作者がレイヤー音楽として聴いているからこそ可能なことだと考えられます。

あるいは、正確な音取りをするために、レイヤー分けをすること、つまり着目する音を絞りリズムを認識することが要求されることもあります。レイヤー分けが出来ないと、正確なリズムを見つけられないことがあるということです。自分は、譜面作成時に楽曲のリズムが分からず、知りたいリズムを持つ音だけの音源を別でもらったことがあります。実際、その音源をもらうことで正確な音取りを知ることが出来ました。知りたいリズムを持つ音だけの音源を別でもらうという行為は、レイヤー音楽の究極形であるといえます。そのため、この経験は、レイヤー音楽が譜面の音取りに便利であることを示しています。

レイヤー音楽を補助するために、ビットクラッシャーやダイナミックEQを使うという考え方もあります(下記記事の3.にあります)。

https://www.tumblr.com/degistalgia/636834682187726848/beatech-original-5th-advent-calendar-2020
degistalgia.tumblr.com

レイヤー分けは、混フレを作る際にも便利です。

例えば、ドンカマ2000の前半部分は、四分の音とそれ以外の音をレイヤー分けすることによって、非常に難解なリズムを生み出しています。

youtu.be

しかし、一概にレイヤー音楽が良いというわけではありません。JPEG音楽が譜面制作にもたらす恩恵も存在します。自分がレイヤー音楽側の人間なので、あくまでも予想でしかないですが、このような恩恵が考えられるのではないでしょうか。

  • JPEG音楽は、「聞こえる音」を取る

JPEG音楽として譜面を作成するときは、他の人でもはっきりと聞こえる音のみを取るはずです。譜面作成の際には聞こえる音を取る、それはそうでは?と考えるかもしれませんが、これは逆側の観点から見ると分かりやすいです。逆側の観点というのは、レイヤー音楽は、聞こえない音を取ることがあるということです。レイヤー分けすると、JPEG音楽ではリズムがろくに聞こえないような小さなハイハットの音なども聞き取ることが出来ます。しかし、そのような小さな音を正確に取ると、特に小さな音に着目していないプレイヤーにとっては、「よくわからないリズムのノーツ」として違和感を与えてしまいます。この考え方は、作曲者が譜面を作るときあるあるとしてよく耳にする「作曲者は聞こえない音を取りがち」という言説に説明を与えることも出来ます。作曲者にとっては、楽曲は完全にレイヤー音楽として聴くことが出来るため、聞こえない音を取ることがあるということです。

  • 譜面が押しやすく、かつ手抜き感がなくなる

レイヤー分けして譜面を作っていると、繰り返し鳴っている同じ音は同じ鍵盤にアサインしようというような意識が働くことがあります。これは場合によっては譜面の説得力を向上させ、より良い譜面を作成するのに役立つことがありますが、やたら押しにくい譜面だったり、手抜き感のある譜面という印象を与えてしまうこともあります。

WHITEOUT [MXM]

これはWHITEOUT[MXM]の16小節です。この地帯では16分でキックが、12分でメロディが鳴っており、この譜面はその音を取っています。しかし、左手と右手で完全に取る音が異なっていることや、音に対するノーツの置き方が単調であることから、個人的にはこの小節から強い手抜き感を覚えます。JPEG音楽として譜面を作成すると、このような手抜き感のある配置は出ないのではないでしょうか。

この考え方を応用すると、譜面から手抜き感をなくすためには、譜面はレイヤー分けではなく、JPEGっぽくするという考えに辿り着くことが出来るかもしれません。例えば、この譜面は、ノーツのレイヤー分けがあまりにも自明すぎるがために手抜き感を与えてしまっています。しかし、ノーツをレーン横断させ、レイヤー分けの自明度を減らし、混フレを全体として1つのJPEGであると認識させるようにすれば、手抜き感がなくなると考えられます。この考え方にはもう少し吟味が必要だとは思いますが、手抜き感をなくす一つの指針くらいにはなるのではないでしょうか。

おわりに

本記事では、JPEG音楽とレイヤー音楽という2種類の用語の定義を行い、この2種類の用語を用いた考え方が譜面作成の思考に与える影響について説明を与えました。この記事で語った譜面制作の思考は目新しいものではないと思っていますが、この2種類の用語は、既存の言説に分かりやすい説明を与えられるものであると言えるのではないでしょうか。この2種類の用語は、一過性の用語として済ませるには勿体ないと考えています。この2種類の用語が、今後より良い譜面制作のための思考の一助になることを祈っています。

(9/3) 構成を修正